さあ、キナバルの頂に向けて、ラバンラタ小屋から出発です。一日で小屋から登頂を果たし、再び小屋に戻った後に、一気に下山します。標準的なコースタイムだと約10時間ほどのロング行程となりますが、準備は万全にしてきました。
あとは天気がもってくれるのを祈るだけ、自信を持って登攀に向かいます。
なお、この記事は前回の続きとなっております。
真夜中のラバンラタ小屋を出発
午前1時55分、食道にはたくさんの登山者の方が集まっています。食事が2時から始まるのを、今か今かと待っている状態です。ちなみに前日同様ビュッフェ形式での食事となります。
アタック日の食事は、この時間(アタック前)と、アタック後に再び山小屋に戻ってきた時の2回、提供していただけます。お米や焼きそば状の麺など、炭水化物が多く選べるので、しっかりエネルギーを補給していきましょう。
2時22分、食事を終えてガイドさんとも合流したので、意気揚々と出発です!
この時間だと、まだ出発する登山者はあまりいません。
前日までの登山でもそうでしたが、相変わらず階段が待ち構えています。
ガイドさんは、昨日とは違い靴も含めて完全防備で、先頭を行ってくれます。
距離を示す看板も健在です。3時5分現在、ゲートから6.5キロ地点です。この標高だと、さすがに昨日のような早いペースで登ってしまうと高山病のリスクを上げてしまうので、出来るだけゆっくり登ります。
ヘッドライトのおかげで目の前の階段は明瞭に見えますが、それ以外は漆黒です。
それでも、階段の外側にはロープが張ってあり安全は確保されています。
しばらく登っていると階段は姿を消して、長大なロープが下がっている岩の斜面に出くわします。
面白いのが、こういうロープや鎖場にて、日本だと前の登山者とはある程度距離を取る必要がありますよね。ところが、間隔を空けようと待っていたところ、ガイドさんから「OK! Come on!」と、すぐ後ろをついてくるように指示されます。
ロープが左右に揺られてバランスが取りにくいですが、手だけで登らないように注意して正確にゆっくり登ります。
3時38分、ゲートから7キロ地点です。そろそろ富士山の標高が見えてきます。ガイドさんはけっこうゆっくり登ってくれるので、高山病の症状は出ていません。高山病の予防薬であるダイアモックスは一応持ってきていますが、今回は服用していません。この調子であれば、元気な状態で登頂できそうです。
もう階段は完全になくなって、岩の斜面をロープ頼りに登っていくフェーズになっています。岩が濡れていたり、よっぽど悪天候でない限り、ロープは使わなくても十分登ることができます。
ところどころ傾斜がきつい部分があるので、ガイドさんに「Please more slowly!」と声をかけます。
なんせ非常に寒いので、汗をかいてしまうと体の芯から冷えてしまいます。それは避けなくてはいけません。時間はたっぷりあるので、ペースを守りながら登っていきます。
最後の一登り
夢中で登っていると、何やら建物が見えてきました。ここはサヤッサヤッチェックポイントです。
左のほうに行けば、トイレがあります。
チェックポイントにはスタッフが1名常駐していて、この先IDカードがないと登れないことになっています。
IDカードを山小屋に置き忘れてしまうと目も当てられません。山小屋から出発するときは絶対に確認しましょう。
真っ暗すぎて、下の様子も上の様子も、曇っているのかも分かりません。
目の前の、めちゃめちゃ頼りがいのあるロープが見えるだけです。このロープは単純に登攀補助としての役割だけでなく、道迷いを防止するという意味でも、かなり安心感があります。
感覚としては、恐ろしく巨大な一枚岩を登っているような感覚です。
夜の間に登っている間は、やや単調に思えてしまうかもしれません。そのぶん、夜が明けて下山するときに、どんな景色が見られるのか、楽しみが膨らみます。
4時40分、ゲートから8キロの地点です。ここまで来れば山頂まであと僅か、富士山の標高はいつの間にか越しており、山頂まで標高差にして166メートルほどとなります。
まだ東のほうを見ても真っ暗で、夜が明ける気配がしません。それでも、風が吹き抜ける感覚から頂上が近いことが何となく分かりました。
ここで最後の休憩をとります。ゼリー状のエネルギーを大量に持ってきていたので、ここでいくつか消費し、山頂で日の出を待つことになるのでミドルレイヤーをもう一枚追加。
このときの服装は、アンダーウェアの上にミドルウェアを2枚、そのうえにフリースを着込んで防寒を徹底しています。
しばらく休憩をとり、体力が全快したのを確認してから、一気に山頂へ向かいます。
キナバル山登頂
5時25分、マレーシア最高峰のキナバル山(4,095m)登頂!
看板に書かれている通り、ここは「キナバル自然公園」として世界遺産の自然遺産に登録されています。
休みを適宜とりながらゆっくり登ってきたため、辛さやしんどさは感じませんでしたが、冷え込み具合はなかなかのものです。服は最低でも4枚は着込んでおいて、レインウェアを入れて5枚持っておくべきですね。
そして、看板がある場所は広くないので、写真を撮影したら少しだけ下に移動して、日の出を拝みます。
5時半くらいになると、東の空が明るくなってきました。
真夜中に登っている最中、星は見えましたが上空の様子や周りの様子は一切分からなかったので、太陽の気配を感じるだけで自然と気持ちも高揚してきます。
登ってきた道のりの様子も、少しずつ分かるようになってきました。
日本だとなかなかお目にかかれない、キナバル山の特徴的な花崗岩の道と、ポツポツと見える登山者のヘッドライトが神秘的な風景を演出しています。
「ああやって登ってきたんだな・・・」と感慨深くなりますね。
山頂から南西方向に見える特徴的なピークは「St.John’s Peak」で、4,091mの標高を誇ります。
圧倒的な存在感というか、威圧感さえ感じる風貌ですね。
西側は、雲の割合がやや多めですが、雨季だとは思えないほど恵まれた景色が広がっています。
登山者の方々も続々と登ってきて、思い思いの場所で日の出を待っています。
あと少し・・・!
見つめる先にも4,000mに迫る峰々が勢ぞろいしています。固唾を飲んで東の空を見つめます。
6時ちょうど、峰々の間から日が昇ってきました。
ほんとうに素晴らしい瞬間で、東の空が一番良い色に彩られます。
4,000mからの日の出は格別です。
ズームレンズを目一杯引いて撮影。やはりキナバル山はこの辺りでも本当に特異な様相で、少し遠くの方を見れば、低地の熱帯雨林がずっと先まで広がっています。
全く飽きない景色で、このままずっと見ていたいところです。
頂上に登る途中の、なだらかになっている部分でも多くの登山者が足をとめて東の方向を向いています。
山頂でしばらく景色を眺めたあと、岩陰で寝ていたガイドさんに声をかけ、下山します。
ガイドさん曰く、もう数えきれない程登っているので、頂上の景色を楽しむよりも、こうしてゆっくり休んでいるとのことでした。
ダイナミックな下山道
下山時は、このようなダイナミックな地形を下っていきます。
これが本当に快感で、登りでは暗くて味わえなかった景色を眼下に、花崗岩を渡っていきます。
途中、ガイドさんが少し道を外れたと思ったら、「St.John’s Peak」を背に、鏡池のようになっている箇所から写真を撮っていただけました。
流石ガイドさん!他の方が全然通らないツウな場所を色々知っているな!と感動しました。
下山でも、基本的にはロープを頼りにどんどん下っていきます。眼下の景色が見事すぎて、たまに足を止めて撮影をしてしまいます。それでも、ガイドさんは私が写真を撮るたびに足を止めて待っていてくれるので、落ち着いて景色を楽しむことができます。
改めて頂上のほうを振り返ると、キナバル山の雄姿が見られました。
もちろん登りのときは真っ暗で目の前のロープしか見えていなかったので、何度も振り返っては遠のく山頂を名残惜しく見送ってしまいます。
こんな感じのスペクタクルな風景を富士山の御殿場ルート下山時にも見たような気がしますが、それよりも高度が高いうえに気候も全然ちがうので、下山していてワクワクします。
しばらく下っていますが、澄んだ景色がずっと遠くまで見えます。
それでも、午後はかなり雨が降るらしい・・・。ここは赤道付近で貿易風が吹いているので、天気の変化を知るため東の空に注目していますが、そんな天気が悪くなりそうな感じはしません。
この時は、そんな風に思っていました・・・
ずいぶんと降りてきました。もう20分程度下れば、ラバンラタ小屋に戻ってきます。
登りのときにはこんな光景が見られないので、時々振り返ってキナバル山の姿をしっかり身に焼き付けておきます。
7時40分、小屋に戻ってきました。ガイドさんと、9時に出発することを打ち合わせて下山の準備をします。
小屋ですることは、主に下記の2つです。
①2度目の朝食
②部屋の鍵の返却(返却でチェックアウト扱いになる)
朝食は毎度のごとくビュッフェ形式で、食べたいものを持って行ってテーブルで食べるスタイルです。
そして、部屋の鍵はフロントに渡して終わりなので、特に受付と会話することもありません。
午前9時、下山の時間なのでガイドさんと合流し、これからティンポホンゲートまで下ります。
なんと1時間ちょっと前までは晴れていたのに、かなり曇っているどころか、細かい水滴が感じられるほどに冷え切っていました。
この後間違いなく降るな・・・と思ったので急いでザックカバーとレインウェアを上下で着用します。
その予想はすぐに当たり、雨が降り出してきました。
やはり雨季は侮れません、ボルネオ島に入ってから毎日雨を見ています。
下山の際は、いくつかの休憩場所をスルーしながら休憩しました。
途中とんでもない勢いで雨が降ることもあれば、ピタッと雨が止んで暑くなることもあり、雨季の熱帯雨林特有の激しく天気が変わる様子が見られました。
レインウェアなどで完全防備だったので特に不自由はなく、むしろこの気候を楽しいと感じていました。
ただ、登山靴は激しく汚れるので要注意です。
11時48分、ティンポホンゲートまで戻ってきました。
ここで下山完了となります。この先にマイクロバスが待っているので、レインウェアを脱いでガイドさんと乗り込みます。ガイドさんは傘をさしながら、百戦錬磨の足取りで器用に下山していました。
最初はヒヤヒヤしながら見ていましたが、全く心配しなくてもいいほど軽々下山していたので脱帽です。
「WELCOME BACK」
この文字の安心感が半端ないですね。無事に帰ってきたんだ!という嬉しい感情が心を打ちます。
なお、この後はマイクロバスでレストランに降ろされ、ガイドさんとはお別れです。本当にお世話になったので感謝の言葉とチップを渡し、見送りました。
レストランで食事をとったあと、公園事務所に戻って登頂証明書を受け取り、コタキナバルへ戻りました。
キナバル登山を振り返ると、4,000m級の山にもかかわらず、本当に登りやすい印象でした。
もちろんガイドさんの存在や、徹底的に整備された登山道も勿論ですが、何よりも登っていて本当に楽しい山だなと思えたので、そんな印象を持てたのだと思います。
体力的な感覚としては、やはり富士山が最も近いです。特に御殿場ルートを1泊2日で無理なく登れるレベルであれば、かなり登頂しやすいと思います。
なお、今回はNCT(有限会社 自然と文化の旅)さんを利用させていただき、ガイドの手配から現地での行動計画まで、あらゆる行程をサポートしていただいたので、登山に集中することができたのも大きなポイントだったと思います。
【有限会社 自然と文化の旅】
今回2回にわけてキナバル登山について登山の記録を記してきましたが、キナバル登山の魅力や特徴などを少しでもお伝えできればと思います。
登る前までは、やっぱり雨季だから登山には向いていないのかな・・・と思っていましたが、早朝は晴れる確率が高く、今回のような素晴らしい景色が拝める可能性は十分にあります。
キナバル登山は、初めての海外登山として登られることも多いですが、なぜ選ばれるのか、その理由を十分に堪能できた素晴らしい登山となりました。キナバル登山にチャレンジしてみたい方がいらっしゃいましたら、この記録が少しでも一助となれれば幸いです。
2023年10月18日
8:45 公園管理事務所
9:09 ティンポホンゲート発
9:31 Pondok Kandis着
9:49 Pondok Ubah着
10:15 Pondok Lowii着
11:24 Pondok Layang着
12:20 Pondok Vilosa着
12:39 Pondok Paka着
13:08 ラバンラタ小屋着
2023年10月19日
2:22 ラバンラタ小屋発
3:42 サヤッサヤッチェックポイント
4:40 3,929メートル地点
5:25 キナバル山山頂着
6:11 キナバル山山頂発
7:40 ラバンラタ小屋着
9:00 ラバンラタ小屋発
11:48 ティンポホンゲート着