新穂高温泉からスタートした1日目は、ほとんどがガスに包まれた道のりとなりました。
そんな中、最後に見事な夕陽を拝むことができたため、独標に向かうこの日は更に期待が膨らみます。
西穂独標への道は、山荘を出発して20分ほどで最初のピークである西穂丸山を経て、そこから1時間半ほどで西穂独標に到着する予定です。
通年で営業している山小屋が近くにあることや、独標への距離的にもそんなに離れていないこと、標高差がそんなに離れていないこと等から、人気の山域となっております。
ただ、それは難易度が低いことを表している訳ではありません。特に、独標直下は色んな要素で危険度が跳ね上がる箇所でした。
その様子と、最高の大パノラマを記録していきます。
西穂山荘からの朝
午前6時2分、澄徹した空気と見事なグラデーションに包まれた空、素晴らしい景色に興奮が抑えられません。
テント泊の方を中心に、この時間からスタートする方が何パーティーか居ます。
最初は向こうに見える山肌の奥へ進みます。西穂丸山まではそんなに遠くないうえに、難易度もそんなに高くありません。
ただ、地形的に風が強くなりやすいので、それに警戒してバラクラバやオーバーグローブ、ビーニーといった冬山用の防寒具を確認します。
朝食を6時半で指定したため、夜明けの素晴らしい景色はこれで見納めにして、いったん山小屋に戻ります。
風はほぼ無風、富士山も見られるほどの透き通った空と、下の方は雲海に包まれて美景となっています。
西穂山荘からスタート
7時11分、西穂山荘からスタートです。前日も賑わっていた雪山講習会の方も続々と山小屋の前に集合してきました。
逸る気持ちのままに速攻でアイゼンを着け、まずは西穂丸山に向かいます。
すでに何人もの登山者が向かっているので、トレースはばっちりあります。
右の方にも跡が多く残っていますが、ここで雪山講習の方が滑落防止の練習をしていたのだと思います。
少し上に登ったところで、北西側に存在感抜群の笠ヶ岳が雄大に聳えています。
あそこには前にテント泊で登りましたが、こうやって見ると本当にかっこいいです!
振り返ってみると、視界の先まで続く壮大な雲海が飛び込んできました。美しすぎて何度も足を止めて堪能してしまいます。
そして、遠く彼方には白山も確認できました。
東の方向を見ても、一面の雲海が遠くまで広がっており、上高地は雲の下です。
風が殆どないので雲海が動くことがなく、本当に大海が広がっているようです。
先の方を見ると、西穂の険しい一面が顔をのぞかせます。
丸山までの道がやさしいことから、この素晴らしい景色にニヤニヤしながら登っていましたが、あの険しさを目の当たりにすると表情が引き締まります。
7時37分、西穂丸山に登頂です。
バックには笠ヶ岳が映え、正直ここで引き返しても大満足できる光景となっています。
しかも、しばしば強風の通り道となる西穂丸山ですが、この日は雲海が微動だにしないほど無風で、雪山を登るには最高のコンディションとなっています。
西穂独標のとり付きへ
7時48分、西穂丸山を出発します。多くの登山者が登っているのが見えますね。
西穂丸山までの道とは違い、斜度が目に見えてキツくなったのが分かります。
軽アイゼンで登っている方がいましたが、独標まで行く方は間違いなく12本爪のアイゼンがいいです。下山で大変苦労するので・・・。
ひたすら斜度のある登りですが、後ろを振り返ってみると最高の景色が目の保養になります。
不動だと思っていた東側の雲海が少しずつ上ってきて、上高地が見えてきそうです。
後ろに見える、いかつい焼岳やガタイのいい乗鞍岳も存在感があります。
あそこに見えるのが西穂独標です。
ご覧の通り、渋滞しています。いったん安全な場所で、どのタイミングで行こうか相方と相談。
今登っている皆さんが降りてきたタイミングでアタックすることにします。安全第一です。
危険極まる西穂独標への登攀
しばらく様子を見ていると、ある方が降りるときに必要以上に慄いてしまっており、渋滞に繋がっていました。
確かに垂直に近い箇所もあり、人によっては動けなくなってしまうような恐怖感を感じると思います。
そんな時こそ、アイゼンとピッケルを信用して、落ち着いて足場を確保することが大事なので、むしろ動かない事の方がリスクになりがちです。
それでも、西穂山荘に泊まった方の半分以上は独標が目的地なので、混むのはしょうがないです。
独標直下に来ました。さっきの場所から30分弱待って、渋滞が緩和されてきたタイミングで漸く登っていきます。
見ての通り、岩が結構露出しているので、場所によってはアイゼンが効きません。無理に人のトレースを辿るよりも、トレースを気にせずにアイゼンが効きやすい場所に足を置いて冷静に登ったほうがいいです。それは、下山ではもっと気をつけるべき点です。
この場所の下のほうで、前向きに降りようとした男性が滑って転倒してしまい、側頭部を岩に掠ってしまっている場面を見ました。出血がみられたものの、近くにいた方のサポートにより大事ないようだったので少し安心しました。
そして、こういった場面では前向きに降りることは極力避け、とにかく転倒・滑落を避ける手足の運びが大事であると改めて実感させられました。
ここより上は、相互通行が極めて難しいので降りる方を一旦優先します。ただ、とめどなく登山者が降りてくるので声かけは必須です。そして、下山してくる方は余裕のない方も少なくありません。
登人「登ってもいいですか?」
降人「無理です!!!」
登人「何名くらい降りてくる方がいますか?」
降人「分かんないです!!!」
※登人→登っていく人 降人→降りている人
といった一幕もあり、降りる方で苦戦されている方が多いです。
降りる方が落ち着いたタイミングで、一気に独標に向かって登っていくと・・・
なんといきなり西穂独標に着きました。9時37分の登頂です。
長い登りを経てようやく登頂した!という感じではなく、ちょっと登ったら独標がいきなり目の前に現れたような感覚なので、安心したと言うか、「あれ?」というような不思議な気持ちでした。
さあ、頂上まで着いたボーナスタイムです。
まずは南東方面、すっかり雲が抜けて下の上高地が見えました。そして、乗鞍岳もその全容が顕現し、雲海を従えて幻想的な光景を演出しています。
そして、ピラミッドピーク・西穂高岳の方は、この山域の本気が伝わってきます。
荘厳な光景に頭が爆発しそうになるほど最高の思いです。この先に進む人は上級者であり、さっき登った独標への急登を何度も繰り返す難所となっています。
かねてから穂高連峰は北アルプスが誇る山塊だと思っていましたが、これを目の当たりにしてしまうと、ここより素晴らしい場所なんて無いんじゃないか?と錯覚してしまうほどの絶景です。
下山の路につく
9時48分、名残惜しい気持ちがありつつ、最後にロープウェイの方を見て下山します。
下山で最も気を付けたポイントは、岩を避けて足場を確保することでした。人のトレースを辿っていくと、露出した岩に当たってしまいます。そうなると滑落に繋がってしまう危険があるので、トレースは気にせずアイゼンが引っ掛かりやすい場所を確かめながら一歩ずつ降ります。
垂直に近い箇所は短い距離なので、恐怖感があっても長くは続きません。
あとは、下から登ってくる方と声をかけあって登ることが大事ですが、幸い登ってくる方がいなかったので、集中して迅速に降りることができました。
安全と言える場所まで降りてきましたが、人がいなければ割と一瞬でした。
必要以上にビビらず、アイゼンとピッケルを信じ切るのが大事ですね。
10時29分、丸山まで降りてきました。
独標からの下りは、特筆することはないですが、終始素晴らしい景色が眼前に広がっているので、それに目を奪われて転倒しないように集中しましょう。
それでも信じられないほど最高の景色がずっと広がっているので、集中を妨害してきます。本当に最高ですね。
10時48分、西穂山荘に戻ってきました。アイゼンは外さずにロープウェイ乗り場まで履いていきます。
荷物を全部持って登ってきたので、山荘には寄らずにそのまま下山していきます。次に来るときは、あの有名な西穂ラーメンを味わってみたいですね。
西穂山荘からロープウェイ乗り場までは基本的に樹林帯なので展望は殆どありません。
ただ、ロープウェイ乗り場近くからはご覧のような北アルプスの峰々が一望できる展望があります。昨日はこんな景色が見られなかったので、益々美味しい思いをさせていただきました。
11時43分、ロープウェイ乗り場のある西穂高口駅に到着しました。
入口は相変わらず滑りやすく、外でアイゼンをぬいだら速攻でスリップしました。
ここまで来れば、ハイカー以外の観光客の方々も多く、皆素晴らしい景色に感動しています。そういうのを見ると、何となく嬉しい気持ちになりますね。
ロープウェイの中はこんな風になっています。2階建てなので、これが上下についています。
かなり綺麗な内装で展望も最高です。こんな素晴らしい日に最高の美景が堪能できて、この日に乗った方は自分も含めて幸運としか言いようがありません。
昼になっても綺麗な雲海は崩れたり散ったりせずに残っていました。
ロープウェイで雲海の中に突っ込んでいきます。なんとも貴重な体験で興奮しました。
雲海の中に入ると昨日のようなガスガスで視界が悪い風景に様変わりします。
この変わりようを見て、ガスって展望が全然ないような山行だとしても、上空では今回のような凄い雲海が広がっているんだな・・・と思い、見える世界が広がった気がしました。
今回西穂独標に挑戦しましたが、次に来るときは西穂高岳まで行ってみたいと本気で思いました。
西穂なんてロープウェイもあるし、通年で営業している山小屋もあるし・・・と色々理由をつけてこれまでノータッチでしたが、この日に登れたことは僥倖だと思いました。
これほど長く残る綺麗な雲海を見たことはないですし、冬の西穂なのに強風が吹きすさぶこともなく、暑くも寒くもないという、登るには絶好の条件でした。
もちろん厳冬期登山ならではの危険も身をもって経験しましたが、それ以上に最高の思い出となった西穂独標への山行でした。
2月23日
12:57 新穂高温泉駅
13:58 西穂高口駅発
15:10 西穂山荘着
2月24日
7:11 西穂山荘発
7:37 西穂丸山着
7:48 西穂丸山発
9:08 西穂独標直下取り付き
9:37 西穂独標着
9:48 西穂独標発
10:29 西穂丸山着(下山)
10:48 西穂山荘着
11:43 西穂高口駅着