前回の登山から半年が経ち、あまり良くなかった膝の具合も回復しつつあったため、今回は職場の同僚とテント泊で双六岳ピストンを決行しました。
季節は秋です。七十二候では、蟄虫坏戸 (むしかくれてとをふさぐ)季節で、寒さの到来を感じた虫たちが姿を隠し始める時期なのですが、下界では気温がなかなか下がり切らない日が続いています。ちょっとでも涼しさを感じたいと思って意気揚々と双六岳登山に向かったのですが、その期待は一瞬で汗と共に流れ落ちていきました。
今回は、双六岳登山の1日目、双六小屋までの記録を残していきます。
登山データ
活動時期 | 時間 | 歩行距離 | 累積標高 | コース定数 |
2024年10月1日(2Days) | 16時間58分 | 30.4km | 2,245m | 57 |
新穂高温泉からスタート
10月1日、朝の5時半に新穂高温泉の第三駐車場からスタートです。
ここは登山者が多く利用する無料駐車場で、平日なので空いていると踏んでいましたが、9割以上埋まっていました。
5時42分、新穂高センターに到着です。
槍や穂高に向かう方は右俣方面、そして我々が向かう双六や過去に訪れた笠ヶ岳方面は、左俣方面から向かいます。
新穂高センター内は内装が素晴らしく、お手洗いも綺麗です。
朝のうちは未だ冷えるので、ミドルレイヤーの上にフリースを羽織って進んでいきます。
6時7分、ゲートに到着です。
新穂高温泉で登山届を出し忘れてしまった場合、ここでもポストがあるので提出が可能です。
先ほどのゲートから、わさび平小屋までは非常に平坦な道となっており、落石を除いて危険個所は無いですが、退屈な印象を受ける方も少なくないです。
特に下山でのこの道は虚無になりがちです。
道は平坦でも、時折視線を遠くにうつせば、見事な景色が現れます。
まだ気温も上がってきていないうえに、全然体力も使わない道なので余裕があります。
そして平日ということもあり、全然登山者がいません。なぜ駐車場があれだけ混んでいたのか全く分かりません。
7時3分、笠新道の入り口です。
すでに一度この長くしんどい急登の洗礼を受けているので、見ただけで乾いた笑いが出てきました。
今回は笠新道をスルーし、この先のわさび平まで向かいます。
笠新道分岐と分かれ、わさび平までの道はまだ広いです。
高い木々に囲まれた日陰なので、地面はややぬかるんでいます。
7時17分、わさび平小屋に到着です。
ここはベンチの数が多く、序盤の休憩箇所として非常に有難いです。
この先、次の小屋は鏡平まで存在しません。気温も上がり始めるので、じっくり体を休めていきましょう。
ここまでは、苦労する箇所は特にありません。
半年ぶりの登山でも、まだ全然いけるんじゃないか・・・?
と、この時までは思っていました。
鮮緑の樹林帯を超えて
わさび平小屋から少し歩くと、沢がいくつか現れます。
当然水に浸かっている岩はスリップしがちなので、できるだけ足を地面に対して平行に置ける場所を探して冷静に進みます。
日が高くなりはじめ、青空に鮮やかな緑と遠景の稜線が映えます。
まだ全然傾斜もないので、景色を楽しむ余裕があります。
半年間山登りから少し離れていたので、改めて風景を楽しむ素晴らしさを実感しています。
これだけ見たら、まるで盛夏の景色ですね。
それくらい緑が美しいです。緑色の中にも、深緑、若緑、鸚緑、翠色と、多彩な色が共演していて目に優しいです。
わさび平小屋から少し進んだとこらで、小池新道に入ります。
ここから登山道らしい傾斜のついた道を進んでいくことになります。
傾斜に加えて、ある程度大き目の岩も姿を見せ始めるので、足運びも慎重になります。
現在8時30分、過ごしやすいと思っていた気候が、少しずつ「暑い」と感じる頃合いとなりました。
視界が開けると解放感に包まれますが、それ以上に暑さをダイレクトに感じることになります。
10月の高地とは思えない暑さ、半袖で十分です。
8時54分、秩父沢に到着しました。
標高は約1,720メートルで、新穂高温泉からはだいたい630メートルくらい標高を上げてきました。
傾斜はきつくはないものの、流石に半年間も登山をしていなかった身体には、今まで感じてこなかったキツさがのしかかってきます。
秩父沢はこんな感じで、岩の隙間には清水が流れています。
なお、新穂高温泉ビジターセンターに秩父沢のライブカメラがあったので、この辺りでカメラを探してみたのですが、見あたりませんでした。
秩父沢から少し歩くと、チボ岩というポイントに着きます。
大きな岩がゴロゴロしているので、足元は良くありません。
標高1,900メートルちょっとのところで、イタドリヶ原というポイントに着きます。
かなり天候が良いので視界に広がる光景は見事なのですが、20度はありそうな気温が体力を奪っていきます。
9時46分、上涸れ沢です。
涸れ沢は2か所あり、ここより少し下には下枯れ沢というポイントがあります。
涸れ沢にはこういった簡易的な橋がかけられているので安心です。
この辺は道幅が狭いので、休憩箇所には適していません。
10時17分、標高2,087メートルのシシドウヶ原に到着です。
標高2,000メートルを超えたのに風が全くない上に、かんかん照りの太陽が容赦なく暑さを提供してきます。
鏡平までの道のりは長いですが、周りの落ち着いた風景のおかげで楽しい登山ができています。
特に大きなアップダウンもないので、距離の割には体力的・精神的な負担は少なく、鏡平までの道はゆっくり登っていけば非常に登りやすい印象を感じます。
鏡平が近づいてくると、少し傾斜がきつくなってきます。
周りの木々も低くなってきて、更なる眺望が期待できるのですが、流石にこれだけ長い距離をずっと歩いていると疲れが出てきます。
あの笠新道に比べたら全然きつくない道のはずなのですが、なぜかその当時と同じくらい身体に負担がかかっている気がします。それだけ体力が落ちた現実を突きつけられました。
鏡平の手前で見つけました「あと5分」の岩です。
鏡平から見える景色が素晴らしいのは事前に知っていたので、そこで見られる最高の景色を思い描きながら、もうひと踏ん張り。
さあ、石の階段を登って鏡平の景色を拝みに行きます。
もう暑さとか疲れとかは後回しで、ただ景色を見に行きたい一心でペースが上がってしまいます。
そして、ここまでの道で槍ヶ岳をはじめとした北アルプスのパノラマが見られる箇所はいくつかあったのですが、あえてじっくり見ることはせずに我慢していました。
それも、鏡平という絶好の展望台でしっかり目に焼き付けたいと思ったからです。
階段を登りきり、息を切らして顔を上げたところに飛び込んできた景色は、期待を超えていたものでした。
鏡平の絶景と最後の急登
午前11時ちょうど、鏡平のシンボルである鏡池に到着しました。
これを見て最初圧倒されてしまい、自然と溜息が出ました。
槍ヶ岳を筆頭とした大キレットの迫力は、他の山域ではなかなか見られません。
視線を横に移すと、大キレットの核心部が見えます。
この位置から見ても恐怖感が伝わってくるほどの風格があり、ただ美しいだけではない圧倒的な存在感がありますね。
鏡池の前にはいくつかベンチが置いてあり、目の前の絶景を見ながら体を労います。
11時13分、鏡平山荘に到着です。
わさび平小屋でも思いましたが、ここでも山荘の外観が非常に綺麗で、魅力たっぷりの山小屋です。
双六岳へ向かうほとんどの登山者がここで足を止めて、この先に待ち構えている急登への準備を進めています。
12時前には鏡平山荘を出発し、稜線へ向かう急登へ足を踏み入れます。
急登とはいえ、距離はそこまで長くないうえに標高差も300メートル弱なので、そこまで気負う必要はありません。
時間をかけてでも焦らずに進んでいきます。
何よりも嬉しいのが、足を止めて後ろを振り返ったときに、この素晴らしい美景が見られることです。
新穂高から右俣方面で槍ヶ岳に向かう方は、画像右側から伸びている飛騨沢ルートを通って槍ヶ岳へ向かいます。
あそこのルートから槍ヶ岳に行ったことがないので、ぜひ機会を作って行きたいですね。
急登とはいえ、ところどころ足を休ませてくれるような平坦なポイントもいくつかあります。
そして、晴れていればご覧のように、これから向かう道も明瞭なので、テンションも維持できて楽しい登りが堪能できます。
道幅も極端に狭い訳ではなく、割と登りやすい印象を受けます。
鏡平山荘から弓折乗越までコースタイムは1時間で見積もっていましたが、割とゆっくりめに登っても少しタイムを巻いて辿り着きそうです。
目指す稜線が近づいてきました。最後の一登りですが、山は基本的に山頂や稜線に近くなるほど斜面も急になるので、更にペースを落として稜線へ向かいます。
どれだけゆっくり登っても、この斜度と暑さ、そして行動時間の長さによる眠気もだいぶ前から襲ってきて、疲れが重なるタイミングでした。
弓折岳登頂
12時36分、弓折乗越に到着しました。
先ほどまで快晴でしたが、午後になってから少しづつ雲が湧いてきて、それが凄い早さで風に流されています。
この場所から10分ほどで、弓折岳というひとつのピークに行くことができます。
せっかくなので、荷物をデポして弓折岳へ行くことにしました。
弓折乗越から弓折岳までの道も、特に急登や危険個所はないです。
ただ、道がハイマツに遮られて細くなっている箇所があり、霧や雨天の場合は、道迷いが起きてしまう可能性が増します。
12時43分、弓折岳(2,592メートル)に登頂しました。
この場所から、壮大な双六岳方面を仰ぎ見ることができます。
あまり知られていない山頂なので、比較的静かに景色を堪能することができる良い場所です。
腰の高さくらいまでハイマツが生い茂っていますが、その後ろに双六岳をはじめとした素晴らしい景色と、丁度この時間くらいから湧いてきた雲が良いアクセントとなって、私好みの非常にゆったりした時間が流れています。
少しの間この美しい景色を眺めたのちに、弓折乗越まで一旦戻ります。
こういうなんでもない道でも、標高が2,500メートルを超えていることを考えたら、ちょっと趣が変わって歩くのが更に楽しくなりますね。
弓折乗越まで戻ったら、あとは稜線を伝って双六小屋まで向かうだけです。多少アップダウンはありますが、これまでの道に比べれば体力の管理は楽になります。
ここまで悩まされてきた暑さには最後の最後まで付き合うことになりましたが、あとちょっとで今日の行程が終わることを考えると、心が逸ります。
双六小屋までの稜線を往く
弓折乗越からの稜線は本当に歩きやすく、この日は風もそんなに強くないのでかなり快適に歩くことができました。
平日ということもあってか、鏡平山荘から先ではすれ違う登山者の方も殆どいません。
弓折乗越から少し歩くと、広いエリアに出ました。
細かく硬い砂で敷き詰められた地面で、向こうには座れる場所も確保されています。
花見平と言われる場所で、弓折乗越から双六小屋までの間では一番良い休憩場所となっております。
季節はすでに終わっていますが、初夏の頃になるとハクサンイチゲなど色々な高山植物が咲き誇り、双六岳が花の百名山に選出されている所以をしっかりと実感することができる素晴らしい場所となるのです。
槍ヶ岳の方を見ると、雲の上に浮かんでいるように見えます。
槍ヶ岳がもつ異質さと存在感が際立つ一枚となりました。
弓折乗越からちょうど半分くらいを境に、双六小屋へ向かって下りが多くなります。
次第に雲もこちらへ流れ込むようになり、暑さは落ち着いてきました。
13時35分、遠くに双六小屋が見えてきました。
目的地が見えると、辿り着くのに想像以上に時間がかかる謎の現象を何度も経験してきたので、まだまだ気を緩めずに歩みを進めます。
それでも、8時間も行動してきたヘトヘトの体にはオアシスを見つけたような気分になって自然と笑いが込み上げてきました。
双六小屋が見えてからの道も、非常に歩きやすく楽しい道だったので、それほど苦労することなく小屋まで辿り着けそうです。
さっきまで覆っていた雲も風に流されて去っていきました。
テントは、まだ10張ほどしか張られていないので場所を選び放題です。
双六小屋到着
14時ちょうど、双六小屋に到着しました。
双六岳に向かう方はもちろん、三俣蓮華や笠ヶ岳方面、樅沢岳を経由して槍へ向かう方など、あらゆる登山者の交差点となっている有難い山小屋です。
テント泊の受付を済ませて早速設営にかかります。
テント設営の前に、この場所から見られる鷲羽の雄姿を眼前に捉えました。
今まであまり見る機会がなかったので気にしていなかったのですが、こうやって見ると本当に鷲が羽を広げているような雄大な山で、こんなに目立つ美しい山をなぜ今までノーマークだったのか、不思議でたまりません。
テント場でゆっくり過ごす時間が山登りの醍醐味のひとつですが、今回は環境が非常に良く、強風もなければ雨も降ってこない、向こうの風景も綺麗に見えるなど、理想の条件を全て満たしたテント場と環境でした。
時刻は17時55分。この日の最後に、鷲羽岳を確認してからテントに潜り、ゆっくり休みます。
翌朝は、風がなければ4時45分スタートで双六岳へ向かう予定で打ち合わせ、一日を終えました。
久々の登山でいきなり双六岳テント泊ということで、若干不安はあったものの、同僚のサポートや素晴らしい登山条件に恵まれて、文句のつけようもない登山日となりました。
翌日の天気は当初はあまり良くないとされていたので、色々妥協点を考えながらシュラフに入りましたが、そんな考えを全て一蹴し、自分の想像を遥かに上回る最高の光景を見せてくれるとは、この時は微塵も思っていませんでした。
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