【モンブラン登山③】ソロでモンブラン登山!モンブラン2日目(モンブランの頂へ)

いよいよモンブランの頂へ向けて、長い一日のスタートです。今日は、テートルース小屋から標高差650メートルの岩崖を超えグーテ小屋、そこから5時間でモンブランを登頂し、グーテ小屋に宿泊するロングな行程です。

果たして西ヨーロッパ最高峰の景色を拝めるのか、安全を最優先にしつつ、全力を尽くすつもりで登攀に向かいます。

目次

テートルース小屋からグーテ小屋まで

午前2時10分、テートルース小屋を出発します。もちろん辺りは真っ暗闇です。

星は夜空一面に瞬き、玲瓏たる月が浮かんでいますが、三脚を持ってきていないので残念ながら撮影できませんでした。

改めて準備運動を入念にしつつ、ゆっくりゆっくり進みます。

道は大きな岩と滑りやすい小石や砂のミックスで、真っ暗なので当然登山道がかなり見えづらいです。

この暗さなので、道を外れていたとしても、道を外れた自覚なく迷ってしまうことも十分あり得ます。

昨日のうちに、テートルース小屋から少し歩いて、クーロワールまでの道をある程度頭に入れていましたが、想像以上にルードを辿るのが困難で、一瞬も気を抜けません。本当に道が分かりづらいです。昨日のニー・デーグルからテートルース小屋までの道がどれだけ分かりやすかったか、思い知らされます。

そして、グーテ小屋までの道で最も警戒しないといけないポイントが、そのクーロワールです。

クーロワールは、簡単に言えば落石ポイントで、大小様々な岩が転がってくる通り道を、横切るような形で通過しないといけません。しかし、その落石の頻度が非常に高く、常に落石が起こり得る可能性があります。毎年被害者も出ている非常に危険な箇所ですが、対策のひとつとして早朝に通過することが挙げられます。

もし何も情報が無い場合、この暗さではどこがクーロワールなのか分からないくらい、道が分かりづらいです。

もし初めてモンブランに登るのであれば、テートルース小屋に宿泊するときに、事前にクーロワール付近までの道を把握しておくと、少し安心できます。

テートルース小屋を出てからも、正しい道を示すマークはところどころにあります。ただ、このマークがしばらく現れない時もあるので、「あれ?もしかして道間違えているのかも・・・?」と不安になってしまいます。

道を誤った場合、下手すると落石を引き起こしながら滑落することになってしまうので、自分がどこに向かっているのかの方角と、地図は最低限頭に入れておきたいですね。

クーロワールは、急いで通過したので運よく落石は起こりませんでした。

テートルース小屋を出発しておよそ1時間、クーロワールを超えて少し登ったあたりから、電線みたいなロープが出現します。当分このロープを頼りに登ることになります。

道を外れる心配は少し減りますが、斜度が急になり更に足や心肺機能に負担がかかります。

今はまだまだ真っ暗な時間で、周りを見渡す余裕もなかったため、ひたすら無心で登り続けるしかありません。

後の下山時に実感することとなりますが、この辺りからかなり急な道であることがうかがえます。

これは、カメラを上に向けて撮ったのですが、ほぼ垂直に登るゾーンです。足場も、細い岩の隙間や出っ張りに無理矢理足を入れて登ります。登りでもかなりプレッシャーはありますが、下山時はもっと恐ろしいんだろうな・・・という念が脳裏をよぎります。

どんどん登っていくにつれて、このように人工的な足場が出てきます。たまに片方のネジが外れていてガタガタになっているものがあるので、100%信頼しないほうがいいですね。三点支持を保って、ゆっくり登っていきます。

グーテ小屋の手前には旧グーテ小屋があるのですが、その旧グーテ小屋までの間はずっとこのような岩登りが続くので、グローブを着用して滑らないような対策があるとベターです。

また、あの電線みたいなロープは固いうえに、時折ささくれのようにロープの一部が切れかけている場所もあります。

そのささくれ部分を掴むと超痛い!グローブがなければ出血してしまうほどです。

5時20分、テートルース小屋を出発してから3時間ちょっとで、旧グーテ小屋に到着。だいぶゆっくり登ってきたので、体力はまだあり余裕がありますが、精神的にはなかなか大変な思いをしたので写真もブレブレになってしまいました。

この旧グーテ小屋で、壁のような岩場は終わりますが、ここからはアイゼン・ピッケルの出番です。

ここを境に、雪の道を行くことになります。風も出てきたので、いそいそとアイゼンをつけ、ピッケルを手にグーテ小屋へ向かいます。

5時50分、グーテ小屋到着です。普通に写真を撮影したつもりでしたが、載せられない程のとんでもないブレ具合で、後から確認した時にビックリしました。(帰りに改めてグーテ小屋を撮影しました)

グーテ小屋には寄らずに、小屋前で明るくなるのを待ちます。

というのも、ここからの道はクレバスが非常に危険な要素です。見えない状態、しかもソロで登るには危険すぎるので、明るくなり始める6時すぎになるまで待ちます。

グーテ小屋からバロー小屋まで

6時5分にグーテ小屋を出発。周りの様子が少しずつ見えるようになってきました。

グーテ小屋を後にすると、すぐに視界一杯に一面の雪、そしてクレバスがはっきりと見えます。

シャモニー入りした3日前から今日まで、天気が極めて良く安定していたこともあり、クレバスがしっかり視認できます。

考え得る限り最高の条件で、もし少しでも天気が悪くなってクレバスが見えないような状態になっていたら、この先に進むつもりはなかったので、僥倖としか言えません。

そして、後ろを振り返るとモンブラン針峰群、そしてシャモニーの街並みが朝焼けと共に視界を埋め尽くしています。

ここまでずっと暗闇を一人で歩いてきたので、この光景が一層素晴らしく、幻想的な風景で魂が揺さぶられました。

後ろを振り返ると素晴らしい景色がいつでも見れるので、それを活力にどんどん前に進んでいきます。

トレースははっきりと見えますが、行き方は何通りもあり、いろんなところにトレースがある状態です。この斜度を直登すると非常にしんどいので、ジグザグに進んで少しでも体力を温存しながらゆっくり進みます。

常にクレバスに警戒しながら、自分がこれまで登ってきたどの山よりも遅いペースで登ります。ダイアモックスを服用していたこともあり高山病の症状は出ていません。

朝日が昇り、グーテ小屋の反対側の斜面が照らされています。ずっと思っていることですが、日が昇るだけで信じられないくらい元気が出てきます。太陽は偉大ですね。

グーテ小屋から最初に目指すのは、ドーム・デュ・グーテと言われる標高4,304メートルの衛星峰です。

そこまでは、このようになかなかの斜度がある雪原をひたすら登ります。ここはひたすら体力勝負!

登るたびに、西方にエイギール・デ・ビオナーセイ山が見えます。ときたま、あそこの斜面からザザーッと落石のような雪崩のような音が聞こえるので、ビビッて振りむいてしまいます。

それでも、一瞬たりとも気を抜いてはいけません。なぜなら・・・

こういう小さいクレバスも登山道にたびたび見られるからです。

この山域では、どこでもクレバスに嵌まるリスクがあることを忘れてはいけません。

7時54分、ドーム・デュ・グーテに着きました。ここで標高4,304メートルです。

この場所に来て、これまでと明確に違う部分が1つあります。

それは「風の強さ」です。

ここまで風はそんなに気になりませんでしたが、ここに来ると風は無視できないレベルで容赦なく吹き付けます。

ここで装備を防寒対策MAXにします。

・アンダーウェア

・ミドルウェア×2

・薄手のダウン

・ハードシェル(上下)

・バラクラバ

・ビーニー

・アルパイングローブ

1つでも装備が欠けていたり装備不良だったら命を落としているレベルで風が強いです。

ドーム・デュ・グーテで10分だけ休憩し、次の目印であるバロー小屋(避難小屋)に向かいます。

バロー小屋はドーム・デュ・グーテからもバッチリ見えますが、一度60メートル程度標高を落としてから、登り返しを経て向かいます。

この区間は、道が広いので視界不良のときは特に道迷いに注意する必要があるかと思います。

8時35分、バロー小屋到着です。常に颶風が吹きすさぶ環境であるため、小屋を背にして風下に避難します。小屋にはいろいろシールというかステッカーが貼ってあります。

この先はナイフリッジや雪庇なんかもあり、それがずっと続いているので山頂までじっくり休めるような場所はここが最後です。

個人的に最強のエネルギーだと思っているウイダーインゼリーを2つまとめて補給し、十分休みます。

バロー小屋から見るモンブランへの道筋。ボス山稜が明瞭に見えます。近そうに見えますが、山体が巨大すぎて錯覚が起きています。トレースは見えますが、そこをゆく登山者は小さすぎて、遠目では人がいるようには見えません。

かなりゆっくり登っているので、残り体力は良い感じです。ただ、この先さらに風が強くなることが目に見えて分かるので、力任せに登っていたら一瞬で体力が溶けると思いました。

お菓子を取り出し、食べたくなくても無理矢理エネルギーを補給します。

それでも、自分が追い求めていた景色を目の前にしていると気合いがどんどん漲ってきたので、バロー小屋について20分経過後、意気高く進み始めます。

山頂へ続くナイフリッジ

バロー小屋を出て20分ちょっと、グランド・ボスまでの道はこのような威圧感のある急坂になっています。

常にフランス側から強風が吹いているので、もちろん休むわけにはいきません。

モンブランの素晴らしいところは沢山あるのですが、登っていて気付いたことは、進むたびに全く新しい景色がどんどんと視界に現れるところです。

この先登り切ったら、どんな景色が待っているのだろう・・・?

そんな好奇心も、自分を前に進める原動力となっています。

さっきの壁のような急坂を上がり切ると、こんな身の引き締まるような稜線が視界に入ってきました。

さすがにこれを前にしたら、楽しい!とか好奇心が刺激される!というような気持ちはすっとんで、ただ冷静に挑戦してやるぞ、という一心だけ残りました。

それにしても頂上はまだまだ先です。

細いリッジが続く道です。特に細くて危ない箇所を渡り切ったあとに後ろを振り返って撮影。

さっきのテートルース小屋からグーテ小屋までの岩壁の時にも思いましたが、下山のときはもっと危険なので、その時のことを憂いてしまいます。

道は狭いですが、両足を置くスペースはあり、アイゼン同士をぶつけないよう一歩一歩確かめるように慎重に登っていけば大丈夫です。

イタリア側を見ると、日本ではなかなかお目にかかれないような、いかにもヨーロッパアルプスらしい風景が広がっています。山が急峻すぎて岩肌が露出しています。

自分はこういうのを見るためにヨーロッパに来たんだ!と、嬉しさが込み上げてきました。

モンブランへ続く道中では、これが最も印象に残った風景です。

もちろんフランス側も、イタリア側に負けず劣らず素晴らしすぎる光景となっています。

途中までは見上げていたエギーユ・デュ・ミディがあんなに下に見えます。

モンブラン登山は、今回のグーテルートのほかに三山縦走ルートもあり、その場合はあのエギーユ・デュ・ミディから、タキュール・モンモディを経て、モンブランに登頂します。かつてイッテQでイモトさんたちが登頂を果たしたルートですね。

いよいよ頂上が迫ってきていることを思わせるような稜線に出ました。それでも地図上ではまだ距離があるので、全然油断できません。

高山では当たり前ですが、普段だったら絶対に疲れないような距離なのに、思ったより歩けない不思議な感覚です。

またまた後ろを振り返ってみます。右側にある、ドーム・デュ・グーテの広大な雪原のような山容と、これまで辿ってきた道のりをじっくり眺めます。なかなか進んでいる気がしないので、こうして後ろを見て自分がちゃんと前に進んでいることを確認し、安心感を得てから歩き出す・・・その繰り返しで、この辺は進んでいきました。

山頂が近づくにつれ、イタリア側の景色も開けてきました。今までイタリア側を拝む機会がなかったので、登っているときはたびたびイタリア方面の右を向いてしまいます。

もうモンブランまでの登りも最終盤、登山をしていて最も嬉しい瞬間があと少しまで迫っています。

ここまでくると、高揚感が抑えきれず、今までゆっくり進んでいたぶんペースが上がってしまいます。

頂上へ続く最後の稜線、ビクトリーロードです!

もうこの光景だけで満足してしまいそうなほど美しい稜線です。

前を歩くソロの方についていく形で、いよいよ最高の景色を見にいきます。

ヨーロッパアルプス最高峰 モンブラン登頂!

ひたすら前のソロの方についていったところ、ここより高いところが見えない場所に来ました。

ついに・・・

11時10分、西ヨーロッパ最高峰・モンブラン(4,808m)登頂!

特に標識などは無いので、本当にここが山頂なのか?と、広い山頂をウロウロして、

360度の景色が確認できた途端に、感動が押し寄せてきました。

先日登頂した富士山の標高が3,776メートル、それより1,000メートル以上高いと考えると、本当に不思議な感覚です。

テートルース小屋を出発して9時間、ずいぶんゆっくり進んで辿り着きましたが、そのおかげで周りの景色も楽しみながら、最高の気分で登頂を果たすことが出来たと思います。

今回の登山でめっちゃ好きになった、モンブランから見たイタリア側の風景です。

イタリア側からも一応ルートはありますが、グーテルートに比べると難易度が高いです。あの植村直己さんがモンブランに初めて挑んだときは、イタリア側からのルートで登っている途中、クレバスに落ちてしまい撤退を余儀なくされたとのこと。

ソロでモンブランに登る場合イタリア側のルートは選択肢に入りませんでした。

山頂から見たフランス側、モンブラン針峰群です。下から見るのと上から見るのでは、かなり印象が違います。

上から見ると、険阻な山容が更に際立って見えます。

そしてエギーユ・デュ・ミディが、こんなに近くに見える!

今回はエギーユ・デュ・ミディに行かなかったのですが、次にシャモニーに来た時はエギーユ・デュ・ミディからモンブランの雄姿を見たい、と強く思いました。

自分が今ヨーロッパアルプスで最も高い地点にいるという事実に陶酔してしまい、ずっとここで景色を眺めていたい、という気持ちもありますが、当然のように常に強風が吹き荒れているため、長い時間居ることはできません。

本当に名残惜しいですが、15分ほどで山頂を後にします。

特に下山時は転倒したらマズいので、より一層気を引き締めてグーテ小屋まで下ります。

グーテ小屋まで下山

モンブラン山頂を後にしましたが、このイタリア側の素晴らしい景色も見納めだと思うと、後ろ髪を引かれるような感覚になります。

常に雲一つない好天に恵まれ、これだけ最高の条件で登れることはめったに無いと思うので、集中力は保ちつつ、この光景を目に焼き付けて下山します。

ナイフリッジの下山は特に注意しないといけません。アイゼンを引っかけて転倒なんてしようもんなら、滑落してしまうことも全然あり得ます。

特にイタリア側に落ちてしまうと、どうしようもありません。

12時30分、バロー小屋まで戻ってきました。眼下にドーム・デュ・グーテの広大な道が視界を埋め尽くしています。

下山のほうが神経を使ったので、ドーム・デュ・グーテまでの地味な登りが割としんどいです。残り少ないエネルギーを補給し、グーテ小屋まで無心で歩き出します。

ドーム・デュ・グーテを超えると、ひたすら急坂を下ります。当たり前ですが、尻セードなどはやってはいけません。

勢いがつきがちな下山道ですが、クレバスの危険は登りの時点でひしひしと感じたので、冷静さを保ちながら慎重に下山。

それでも視界に常に映るベルビューや下界の街並みに度々見とれてしまいます。

ここで、風もだいぶマシになってきたのでダウンを脱いでレイヤーを調整し、グーテ小屋まで戻ります。

見えてきましたグーテ小屋!これを見てようやく安心できました。

嬉しさを嚙みしめながら、最後の最後まで集中の糸を切らさずに向かいます。

14時20分、無事にグーテ小屋まで下りてきました。

改めて見ると、この宇宙船のような素晴らしすぎるデザインにワクワクしてきます。

ちなみにグーテ小屋では電波は基本繋がりません。たまに微弱な電波が届きますが、あまり当てにならないです。

グーテ小屋に入ると、こんな感じでギアを置く場所が結構広めにとられています。

シューズ・ピッケル・ロープなどを収納して、受付に向かいます。

食堂はこんな感じで、めちゃめちゃ綺麗な内装でにぎわっています。

テートルース小屋の時にも思いましたが、山小屋に泊まるだけでも非常に素晴らしい価値体験ができます。

夕食まで時間があるので、しばし足を休めます。

夕食は、大きい鍋に食材が大量に入っていて、自分が必要なぶんだけ取っていくスタイルです。

ポテトや肉のほかに、スープ・チーズ・デザートなどが運ばれてきます。

肉はちょっと固いかもしれませんが、疲れた体に最高のエネルギーを届けてくれます。味はかなり美味しいです!

夕食を終えると、やはり倒れるように床につきました。行動時間は実に11時間、その間常に集中力を保ちながら登ってきたので、爆速で眠れました。

こんなに素晴らしい山小屋を筆頭に、これだけ環境に恵まれた中でヨーロッパアルプスの盟主モンブランに登れたことは、本当に幸せなことだと感じました。

さあ、まだ明日の行程も残っています。明日は下山するだけですが、下山時のクーロワールは特に注意が必要です。登っている最中でも、「ガラガラガラ・・・」と落石が起きている音が何回か暗闇に響いていました。

明日はそれを自分の目でしっかり確かめながら安全にクーロワールを通過し、ニー・デーグルへ、そしてレ・ズッシュまでちゃんと降り切って、ようやく登山完了となります。

登りの段階では、その全容が分かりづらかったクーロワールですが、下山のときに見たクーロワールは、想像を超えた脅威と、危険を感じさせるものになっていました・・・。

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