モンブランへの登頂を果たしたものの、下山では危険なクーロワールを通過しなくてはいけません。
更に、クーロワールへ続く下りも、気を抜く暇もないような急坂を下る必要があり、スリリングな下山となります。
無事にレ・ズッシュに戻るまでが登山です。今回も安全を最優先にしながら、最高のままモンブラン登山を終えたいと思います!
グーテ小屋から岩崖下り
6時32分、大変快適だったグーテ小屋を出発します。すでに何組かのパーティがモンブランに向けて出発しています。
下山する方も、この時間くらいに出発する方が何組かいました。
まずは、あそこに見える旧グーテ小屋まではアイゼンを着用します。ややトラバース気味で、見ての通り滑ります。
朝のモンブラン針峰群です。この高さから見えるエギーユ・デュ・ミディをはじめとしたアルプスらしい景色は本当に最高でした。これにて見納めです。
6時43分、急グーテ小屋に到着です。ここでアイゼン・ピッケルを収納します。
1日前に通過したときは、未明だったため暗くて全然見えませんでしたが、ボッコボコで色々貼ってある壁から歴戦の風格を感じました。
旧グーテ小屋から下は道の表情が180度変貌します。もちろん道を外れたら落石と一緒に落ちて大怪我してしまうのですが、そうでなくても浮石が多いので極めて慎重に下山する必要があります。
ロープを固定する器具は、たまにこんな風になっているので注意です。
グラグラして掴みづらいので、これは掴まずに三点支持を駆使して必死に下山します。
下界の街並みが美しい!と言いたい所ですが、それよりも目を引くのが目の前にある落石の通り道です。
クーロワールへ続く恐怖の領域で、下山中も3回落石がありました。そのうち1回は、でかい岩が凄いスピードでクーロワールを通過していったので、改めてその危険さを思い知らされました。
ちょっとずつテートルース小屋が大きく見えてきました。
ガレている足元から目を離せないので、ちょっと歩いて少し足を止めたときに、遠くを見ると景色が変化していて嬉しく思います。
上を見上げると、右上に小さくグーテ小屋が見えます。
相当急峻な道を下っていることが感じ取れます。もちろん1日前は真っ暗で目の前しか見えなかったので、かなり新鮮な景色が見られました。
と同時に、「こんなのを登っていたのか・・・」と若干腰が引ける思いです。
こうしている間も、北方(進行方向右側)から、ガラガラガラ・・・と落石の音が響いています。
いよいよ今回最も危険な箇所であるクーロワールが近づき、緊張も増してきました。
恐怖のクーロワール横断
あれがクーロワールです。毎年死者や負傷者を出している、グーテルートでは無視できない危険個所です。
タイミングを見て・・・とか考えましたが、落石はいつ起こるか全く分からないので、もう運の要素が強いです。
前述の通り、旧グーテ小屋から3回の落石を目撃しました。もっと気温が上がると落石の頻度も上がるので、今の時間で落石3回は、まだ少ない方なのかもしれません。
前を歩いていたペアの方が、大急ぎでクーロワールを渡っています。
誰かが渡っている間は、落石が起きないよう無心で祈るしかありません。
さあクーロワールの手前まで来ました。こうしてみると、落石に気を配るのは当然ですが、道そのものが難しいです。
斜度がきついうえに、砂や石が敷き詰められており、見るからに転倒のリスクが感じられます。
一発で生死の審判が下る恐ろしい場所、ここで待っていてもしょうがないので、覚悟を決めたら即スタート!
クーロワールを無事に渡りました。
ここも完全に安全な場所とは言えないですが、クーロワールの核心部を超えた安心感は筆舌に尽くしがたいものがあります。
冷静に考えると、登りではここを真っ暗なうちに通過したと考えると極めて恐ろしいことをしたな・・・と痛感しました。
難所を超え、テートルース小屋はすぐそこまで迫ってきました。
あの場所を超えるまでの緊張感が凄すぎて急に疲れたので、テートルース小屋はすぐそこに見えるにもかかわらず、ここで小休止。
小屋までの間、ちょっとだけ雪の上を歩くことになりますが、アイゼンはつけなくて問題ありません。
グーテ小屋の方を振り返ってみます。
こんな凄まじい岩崖を降りてきたんだな・・・と、ここを登る前には感じられなかったような感慨に浸ります。
8時52分、テートルース小屋まで戻ってきました。1日前までお世話になった場所なのに、モンブランアタックの1日が濃すぎて、久しぶりに見たような感じです。
小屋には入らずに外でグローブを外したり、栄養補給をしたりと準備を整え、ニー・デーグルまで向かいます。
ニー・デーグルまで安全に降り切って、はじめて大きな安心感を得ることができるので最後まで集中を切らさずに頑張ります。
ニー・デーグルまでの下山 アルプスアイベックスとの出会い
9時過ぎにテートルース小屋を出発します。早朝に発ったグーテ小屋も、あれだけ小さく見えます。
テートルース小屋から最初は雪渓を渡りますが、若干下りなので転倒の心配があります。
雪解け水が流れている部分もあり、どんなにゆっくり進んでも滑ってしまうので下りのときだけアイゼンを着用するのも有りですが、気合いで渡り切りました。
雪渓を渡り切ると、さっきほどではないですが岩と砂の細い道をひたすら降りることになります。
晴れていると、下の道が明瞭に見えます。何気に、グーテ小屋からテートルース小屋までの標高差よりも、テートルース小屋からニー・デーグルまでの標高差のほうが大きいので、体力には余裕を持たせておきましょう。
ニー・デーグル方面です。大きな山影と、テートルース小屋の影が下の方まで覆っています。
雪渓渡り直後は、ちょっと道を外れてしまう危険がありますが、10分くらい下っていけば登山道が見やすくなります。
この辺からニー・デーグルから登ってくる登山者ともよくすれ違うようになりました。
ヘリが物資を運びに、テートルース小屋に向かっています。日本の北アルプスとかでもよく見る光景ですね。
あの急坂を歩荷するには危険すぎると思うので、恐らくあの後グーテ小屋にも向かったのだと思います。
しばらく降りていると、突如アルプスアイベックスが群れでいました!
音もなく岩場を歩いていて、私の姿をみつけても最初ちょっと見ただけで、気に留めていないようでした。
群れの1匹がこちらに近寄ってきました。どんなに可愛くても野生動物には触れないよう避けながら撮影。
アルプスアイベックスがいることは知っていましたが、会えるとは全然思っていなかったので本当にテンションが上がりました。
撮影後、ちょっと遠くのほうにいたヨーロッパ系の方に「You are lucky!!」と声をかけてもらえました。
アルプスアイベックスはニー・デーグルからテートルース小屋までの間の中で、標高2,800メートル前後の岩場に出現しやすいらしいので、この周辺を通るときは近くにいないか、気にかけてみてください!
アルプスアイベックスと別れ、ニー・デーグルを目指します。ここまで来れば、今までの道と比べると危険度は大幅に下がってハイキングの延長のような感覚になるので、周りの景色を楽しみながら下山できます。
どこで写真をとっても絶景が映るので、ほんとうに贅沢な時間でした。
登りのときにも休憩で腰を下ろした岩と小さなケルンです。あの時はワクワク感が強かったですが、今となっては安心感の方が強いながらも、少しだけ寂しさを感じます。
ニー・デーグル近くまで降りてきました。トラムに乗るための道がこのように示されていますが、行きの時は全然気づきませんでした。
10時34分、無事にニー・デーグル(仮設)まで戻ってきました。そこから正面を見ると、こんなパノラマが広がっています。
正面左に見える山に登山道?が見えます。あそこから、モンブラン方面を眺めるとどんな景色が見えるのか、次回来る機会があれば、見てみたいです。この辺りは魅力的に見える場所が多すぎます。
あとは12時にトラムが来るので、それまで待ちます。
12時を少し回ったころ、トラムが上がってくるのが見えます。
こうしてみると、よくこんな断崖絶壁に鉄道を敷くことができたな・・・と感心してしまいます。
トラム到着に合わせ、皆が乗り場に並んでいきます。乗れないことはないので、急ぐ必要はありません。
最後に思ったのは、「ニー・デーグルの工事が終わったら、絶対また来る!」ということです。
これだけ素晴らしい場所、日本からのアクセス難易度は高いですが100%リピート希望します。
ニー・デーグルからレ・ズッシュまで降り、モンブラン登山完遂!
ニー・デーグルからトラムでベルビューまで降り、ロープウェイに向かいます。
せっかくならこの辺りも歩いてみたかったのですが、先日発症した咳が気になるので、レ・ズッシュまでなるべく早く降り切ることを選択します。
ベルビューからモンブラン方面を望みます。
昨日・一昨日は、この時間雲一つない晴天でしたが、今日は雲が湧いています。
明日は天気が悪い予報だったので、本当に最高のタイミングで最高の条件だったから登頂を果たせたのだ、と改めて幸せを噛みしめます。
ベルビューのロープウェイ乗り場に到着。トラムから降りてきた皆様が続々と並んでいきます。
トラムは1日に3回しか来ないので逃すわけにはいきませんが、ロープウェイは30分くらい待てば次が来るので、1回見逃して、次のロープウェイを待つことにします。
下っていくロープウェイを見届けます。ここから見るレ・ズッシュや、シャモニーまで続く街並みも絶景で、気づいたら次のロープウェイの時間までこの景色をずっと見続けていました。
1本待てば、結構空いている状態でロープウェイに乗ることができます。ロープウェイが乗り場に到着したあと、数分はロープウェイの中で待機することになり、結構暑いです。
急ぐ事情がなければ、1本待って乗ってみるのも悪くないと思います。
ロープウェイは5分くらいで下に到着します。正真正銘安全な場所です。
これにて、モンブラン登山は完遂!かなり運に恵まれた登山となりましたが、生涯印象に残るであろう景色をこの目でふんだんに見ることができ、幸せに浸されました。
モンブラン登山はセクションで分けるとすると、
①テートルース小屋まで、
②テートルース小屋からグーテ小屋まで、
③グーテ小屋からモンブラン山頂までの3つの段階に分かれていると思います。
①テートルース小屋までの道は、最後に雪渓渡りがあるものの、夏の北アルプス・涸沢ヒュッテ辺りからザイテングラートの印象が近いです。
②テートルース小屋からグーテ小屋までは、剱岳の核心部がずっと続いている感じです。それにプラスしてクーロワールという、ぶっちぎりの危険個所があります。
③グーテ小屋からモンブラン山頂までは、クレバスがあるうえに高度も4,000メートルを超えるので、なかなか日本の山で形容することは難しいです。もし、積雪期の甲斐駒ヶ岳(黒戸尾根)を日帰りできるようであれば、体力的には問題ないと思います。
一つの山で、これだけバリエーションに富んでいて景色も最高、そして素敵で快適な山小屋もある山は、なかなかありません。ヨーロッパアルプスでしか味わえない魅力をふんだんに楽しむことができたうえに、行程の全てが自分の糧になりました。次に来たときは、モンブランはもちろんのこと、その周りにも行ってみたい場所が沢山見つかりました。
今回の記事でモンブランの魅力や特徴・知られざる一面など、少しはお伝えすることができたかなと思います。
もし、モンブラン登山にチャレンジしてみたい方がいらっしゃいましたら、これが少しでも一助となれたのなら幸甚です。
8月22日
10:20 レ・ズッシュからロープウェイ乗車
10:32 ロープウェイでベルビュー到着
11:55 ベルビューからトラム発車
12:20 ニー・デーグル到着
13:35 バラック・デ・ロニュ到着
15:04 テートルース小屋到着
8月23日
2:10 テートルース小屋出発
2:30 クーロワール通過(登り)
5:20 旧グーテ小屋到着(登り)
5:50 グーテ小屋到着(登り)
6:05 グーテ小屋出発
7:54 ドーム・デュ・グーテ到着(登り)
8:35 バロー小屋到着(登り)
11:10 モンブラン到着
11:25 モンブラン山頂出発
12:30 バロー小屋到着(下り)
13:03 ドーム・デュ・グーテ到着(下り)
14:20 グーテ小屋到着
8月24日
6:32 グーテ小屋出発
6:43 旧グーテ小屋到着(下り)
8:20 クーロワール通過(下り)
8:52 テートルース小屋到着(下り)
10:34 ニー・デーグル到着
12:05 ニー・デーグルからトラム発車
13:20 ベルビューからロープウェイ乗車
13:28 レ・ズッシュへ下山