今回の山行には、並々ならぬ思いがあります。
計画自体は半年以上前から温めており、下調べも念入りに行ってきました。
いろいろあって、本来のルートとは計画の変更がありましたが、今回最大の目的は、”雲ノ平”、そして鷲羽岳です。
雲ノ平は北アルプスの奥地に存在する秘境で、山頂を極めるよりも雲ノ平に行くことが目的という登山者も少なくありません。鷲羽岳へ行くことは、剱岳、ジャンダルム、モンブラン、キリマンジャロへの登頂と同じように、自分の人生の目標のひとつです。
今の自分の膝や体の状態では苦難を伴うことは分かり切っていますが、そこは有り余る気力でカバーしていきます。
体を酷使しながら全力で挑んだ、4日間の記録です。
登山データ
活動時期 | 2025年9月30日~2025年10月3日(4Days) |
時間 | 41時間23分 |
歩行距離 | 48.5km |
累積標高 | 3701m |
コース定数 | 96 |
1年ぶりの新穂高温泉

9月30日の午前5時、新穂高温泉の登山者用駐車場です。
星空が瞬き、冒険のはじまりは静けさに包まれています。
去年双六岳に行ったときは駐車場が殆どいっぱいでしたが、今年は割と空いていました。

5時17分、駐車場から少し歩いて新穂高センターに着きました。
ここから始まる長い山行、準備は念入りにします。
ここには秩父沢のライブカメラがあるのですが、この時は点いていませんでした。

5時半前にスタートしました。
抜戸岳などがある綺麗な稜線が目を引きますが、遠くから硫黄の香りも漂ってきて、五感で楽しめる場所を進んでいきます。

5時41分、山道に繋がるゲートに到着しました。
ここから左俣林道を通って、まずはわさび平山荘を目指します。
今回同行してくれるのは、去年の双六岳山行や蓼科山、冬の浅間山、色々あった燧ヶ岳などを一緒に越えてきたオシャレな同僚です。
そしてもう一人、今回のペースメーカーとなってくれる、可愛い物好きな頼もしい同僚と初めて登ります。
目に映る鮮緑

まずは林道歩きです。
これがひたすらに長く、退屈になりがちです。
それでも、遠くに仰ぎ見る優美な稜線が、我々のテンションを引き上げてくれます。

6時52分、笠新道分岐点です。
笠新道は過去にテントを担いで登ったことがありますが、急登に次ぐ急登で、本当に大変なルートです。

7時6分、わさび平小屋です。
すでにこの時点でテント泊の荷物の重さと、道の長大さに辟易しています。
わさび平小屋では、多くの飲み物やバナナなどが冷やされており、疲れ切った体の癒しとなります。
この先も非常に長い道のりを歩くので、20分ほど休憩を挟んで小池新道へ向かいます。

樹林帯歩きは、見渡す限りの鮮緑が目を楽しませ、耳を澄ますと鳥の声が爽やかな朝に響き渡っています。
このまま布団を敷いて寝たい気分です。

このように、渡渉というほどではないですが、水が道を横断している箇所がいくつかあります。
ゴアテックスなど防水の靴であれば、ローカットでも浸水するほどではありません。

7時52分、小池新道の登山口です。
去年と同じロケーションで同じ空気を感じますが、去年ほど暑くはありません。
我々が越えていくのは、あの稜線の遥か先、最奥は雲ノ平です。
ここから先に挑む景色を見据え、焦らず進みます。
数ある沢を越えて

小池新道は、いくつかの涸れ沢を渡ります。
涸れ沢のポイントは総じて足場が安定しない岩場で、目が離せません。

8時51分、秩父沢に到着です。
登りのときは少し休憩するだけで長居はしませんが、下りのときは清流でクールダウンできる場所なので有難いポイントです。

秩父沢は広く、絶好の休憩場所です。
この時間はまだ降りてくる登山者が少なく、全然人がいませんでした。

9時10分、チボ岩に到着です。
このあたりから遠くの眺望が段々壮観になっていきます。
東側に目を向けると・・・

目の前にあるピークは名前が分かりませんが、奥には穂高連峰に続く天空の稜線が見えます。
すでにこの先の素敵な景色を知っているからこそ、ワクワク感が昂ってきます。

どんどん標高を上げていきます。
背中に背負う荷物は恐らく16kgほどの重量があるため、このような登りが膝に堪えます。

9時37分、下涸れ沢に着きました。
旅を終えた今となっては、正直この辺の光景はあまり覚えていません。
それだけ小池新道が長大で、無心で登らざるを得ませんでした。

視界を埋め尽くす緑に囲まれながら、奥へ奥へと導かれます。
まだ始まったばかり、こんなところで疲れ果てる訳にはいきません。

10時3分、上涸れ沢です。
去年よりも体力が落ちたのに、心強い仲間が2人もいるので疲労感はあまり感じません。

前を歩くのは、今回初めて一緒に行く同僚(先輩)で、ザックに詳しいです。
終始ちょうどいいペースで先導してくれたので、余計な疲れを感じずに行動することができました。

11時23分、この辺はクマの踊り場という場所です。
この年はクマに関するニュースが多く、登山者の意識も変わってきました。
今回の山行も、本来は折立から入って太郎平キャンプ場を使わせてもらう予定でしたが、熊出没により閉鎖となったため、新穂高温泉から雲ノ平へ向かう山行に変更しました。
澄んだ熊鈴の音が響く中、そろそろ鏡平が見えてきます。

もう少しで鏡平です。
500mと書いてありますが、こういう残り〇〇mという表示が見えてから長く感じてしまうのは、山あるあるですね。

この付近は、去年の記憶が蘇ってきました。
この先には鏡池があります。
重かった足取りが一気に軽くなり、鏡池へ急ぎます。
鏡平から弓折乗越へ

11時44分、鏡池に到着しました。
少し雲に隠れていますが、天に聳える北アルプスのシンボルが見えます。
今年は一度も槍ヶ岳に行きませんでしたが、こうして色んな場所から槍ヶ岳の姿を見ることができました。

11時49分、鏡平山荘です。
平日ですが賑わいを見せています。
ここまで大量に体力を使ったので、大休止ついでにエネルギーを補給します。
ここのカレーライスは辛くなくて非常に美味しいです!

谷を挟んで、向こうに槍ヶ岳があります。
鏡平についてからずっと見ていましたが、この時間は常に雲に隠れてしまっています。
雲が晴れたかっこいい槍ヶ岳も見たかったのですが、この先見られるチャンスは沢山あるので、休憩を切り上げて先に進みます。

ここから弓折乗越までは、1時間ほどかけて標高を300m弱あげていきます。
ここまでの道よりも、ちょっとだけ急になります。
しかし、周りが開放的な景観なので、全然苦ではありません。

一気に標高を稼ぐので、鏡平山荘はすぐ眼下に見えます。
そして、穂高連峰の厳つい山稜も顕になり、一気にアルペンチックな雰囲気となります。

弓折乗越が近づいてくると、道幅が少しずつ細くなり、相互通行が困難になります。
私以外の2人はまだ余裕な様子ですが、私はすでに下を向く回数が増えてきました。
目の前にある木の階段を、前のめりになりながら我武者羅に登っていきます。

へろへろになりながら上を見上げると、看板らしきものが見えます。
あれが弓折乗越、あの先は美しい稜線に繋がっています。
もう一息!
仲間に励まされながら、美しい景色を求めて着実に歩を進めます。

13時30分、弓折乗越に到着しました。
ここからの景色は素晴らしく、目の前にある槍ヶ岳や穂高連峰は、どこか違う世界の景色を切り取ったような異質さを放っています。
ですが、またしても槍ヶ岳の穂先は雲の中・・・。

槍ヶ岳方面も素晴らしいのですが、下に見える鏡平山荘も見どころです。
美しい大自然の中に佇む鏡平山荘、息を吞む光景です。
この短時間で、あそこから一気に標高を上げてきたという達成感が湧いてきます。
秋陰の稜線

さあ、弓折乗越から双六小屋へ向かいます。
何気にこの稜線も1時間以上歩くことになります。

解放感のある稜線ですが、道幅は狭く余所見をすると滑落する危険があります。
幸い風は穏やかで、気持ちいい風が吹き抜ける快適な環境です。

あの広い場所は「お花畑」と言われている場所です。
ご覧のように、花が咲いていそうな気配はありません。
ベンチも設置されているので一休みするには最適な場所です。
ここでオシャレな同僚は、後ろから凄い勢いで登ってきた台湾の登山者と会話していました。

14時をまわり、太陽はすっかり雲に隠れてしまいました。
どうやら明日の天気は悪くなるとのことで、これが時化の兆しだと思ってしまいます。

眺望は完全になくなりました。
ですが、目的地は確実に近づいているので、テンションはそこまで下がることはありません。
今の自分にとって、早く横になることが一番の至福です。

14時49分、遠くに目的地である双六小屋が見えてきました。
新穂高温泉を出発して10時間に迫ろうとしています。
寝不足の体にはきつすぎる道のりでしたが、目的地が見えた瞬間に安心感で気が抜けました。

眺望はないですが、野山の錦が美しく、つい足を止めて眺めてしまいます。
さて、体が睡眠欲に負けてしまう前に、一刻も早くテントを張って横になりたいと思います。
双六小屋キャンプ場

1年ぶりの双六小屋キャンプ場です。
去年は空が晴れ渡っていましたが、今年は雲が優勢です。
去年は手前にある池の近くにテントを張りましたが、今年は小屋に近い場所にテントを張ります。

15時10分に双六小屋キャンプ場に到着し、早速テントを張ります。
重いザックを下ろした瞬間、体がものすごく軽く感じて謎の快感を得ることができました。
テントはいつもと同じ、アライテントのエアライズ2です。

テントを設営したら、双六小屋の前にあるベンチでご飯にします。
そして、その場所からは壮観な景色が広がり、中心には鷲羽岳が聳えています。
あの鷲羽岳こそ、今回我々が雲ノ平と同じく最大の目標地点として定めた場所です。
あの頂に笑顔で登頂を迎えるために、今はここから鷲羽岳の姿を目に焼き付けます。

17時をまわりました。
翌日は、最初にこの斜面を登って双六岳へ向かい、三俣蓮華岳を経由します。
そして黒部源流への大下りを経て、雲ノ平へ向かう長大な道のりとなります。
実は翌日の天候が最大の懸念点で、天気図を見ても低気圧が接近しているため状況は悪く、どの天気予報を見ても指標は最低を示しています。
そのため、少し計画の変更を入れつつ、できるだけ早めに出発して午前中の天候が崩れないうちに行けるところまで行く打ち合わせをしてから就寝。
この日、私と同僚は悪夢を見ました。
それは、これから先に起こる苦難の予兆か、或いは心の不安の表れか・・・
今年最大の山行は2日目に続きます。